「績むの世界」展
2016.10.29(土)~2017.4.20(木)
北京「無用」
今、私たちが何気なく着ている服が、かつて布の始まりにおいて、“身の回りの草や木から繊維を採り、糸にし、布にしてきた延長線上にある”と言っても、なかなかピンとはきません。
ではここに、1本の糸があります。これを経にずっと手繰っていってみましょう。
着いた先は、1万年前・縄文草創期の日本の鳥浜貝塚、この糸の素材は大麻です。
では今度は、糸を緯に東の方に手繰っていきます。中央アジア・西北ヒマラヤに辿り着きました。人類の移動と共に大麻はここから世界に広まったのです。
日本で麻と言えば大麻を指しますが、最近では麻という言葉は大麻をはじめ、苧麻、亜麻、葛、芭蕉など植物性繊維の総称として使われるようになっています。
代表的な麻の一つ、苧麻は中国では夏布(China Grass)、韓国ではモシ、日本ではからむしと呼び、細く美しい繊維が採れるため、韓山モシや越後上布・宮古上布の原材料として使われています。
では、繊維から糸にするのは、どのようにするのでしょうか?
まず、手で繊維を細く裂き、1本目の繊維の先に次の繊維の根本を繋ぎます。
これを『績む』と言います。麻の糸作りは績むと言いますが、繊維によっても用途によっても績み方は異なり、様々な績み方が工夫されています。
自然のサイクルに合わせ、繊維の性質に即した糸作りは、強く美しい布を得るために、手間暇を惜しまなかった人たちの知恵の集積と言えるでしょう。
こうして日本、韓国、中国を中心としたその周辺地域に言わば、「績む文化圏」が形づくられ、私たちの先人は独特の文化を形成していったと思われます。
このような布がほとんど変わることなく伝えられ、今尚、アジアの周辺の国々に点在することは、ほとんど奇跡と言っても過言ではありません。
この展示会ではその文化遺産とでも言うべき大麻布や苧麻布を始めとする多彩な麻の世界を一堂に会したいと思っています。
現代社会は、大変便利な時代です。安価で多様な物が溢れ、労せずに必要な物をボタン一つで手に入れることができます。
こうした近年の社会構造の急速な変化は、現代生活とは対極にあるような麻作りの生産基盤を根底から揺るがし、各産地は存立が危ぶまれるほどの危機的状況に直面しています。
このような折、中国の湖南省瀏陽市から麻博物館建設計画がもたらされました。瀏陽は古くから続く夏布の産地ですが、私たちはこれを全ての麻の文化の現状打開・再生のチャンスと捉えています。
各地に伝わる伝統文化を継承しながら、時代に即した新たな布を、協力して作っていきたいと考えています。麻博物館はその拠点となるはずです。
この展示会は、日本・韓国・中国の3つの国が協力して行うプロジェクトの入口です。ぜひ扉を押してみてください。
そこに広がる世界を自分の目で見、手で触れてみてください。そこには、意外と身近で、豊かな麻の世界が広がっていることに気付く事でしょう。
麻の世界にようこそ! 北京でお待ちしています。